【平成30年度東進会総会・懇親会、6月10日(日)です】

【平成30年度東進会 記念講演概要】

福島問題と将来への教訓-哲学の視点から-

  一ノ瀬 正樹(昭51卒、武蔵野大学教授・哲学)

 

 福島問題は、あの3.11から七年以上が経ったいまでも、複雑な様相を帯びて私たちの前に立ちはだかっている。すでに起こってしまった被害、そして現在進行中の被害、そして人々の心が引き起こすバイアスや差別など、とても一つの学問だけで解明できない多様な問題系がここに現出している。たしかに、亡くなられた方々を取り返すことはできない。けれども、津波震災そして原発事故、それらは世界中のどこでも、いつでも、起こりうる。だとしたら、この複雑多様な問題に全方位的な角度から立ち向かい、津波震災や原発事故の教訓を学び、それを将来世代へと伝えていくことは私たち世代の責務であろう。私は、哲学の視点から問いを提起し、問題の実相に少しでも迫り、教訓を汲み取っていきたい。 

 

 私が改めて提起したい問いは、福島県の被災者が被った「被害」とは何であり、そうした「被害」の【原因】は何か、という問いである。福島の被災者の方々の「被害」は自明である。津波震災で亡くなった1600人以上の方々や負傷された方々、そして原発事故に巻き込まれた方々、それらを振り返れば、その「被害」が何であるかは明らかではないか。そのように言われるかもしれない。たしかに津波震災の「被害」は明らかである。けれども、原発事故に巻き込まれた「被害」とは果たして何なのだろうか。いわゆる震災関連死のことだろうか。実際、福島県の震災関連死は、直接死をすでに上回り、2100人以上となってしまっている。では、こうした震災関連死というのは、どのような「被害」なのだろうか。この辺りから、混乱が始まる。原発事故によって放射性物質が一定量拡散されてしまった。ならば、原発事故による「被害」とは、放射線被曝による放射線障害なのだろうか。それによって2100人以上の方々が亡くなってしまったのだろうか。けれども、よくよく冷静に考えてみれば、放射線障害によって2100人以上の人々が亡くなってしまったというのは成立しえない理解であることが分かる。福島原発事故は、放射性物質飛散の規模という点で、チェルノブイリ原発事故のおよそ7分の1程度であり、実際に福島県に住み続けている90%以上の方の被曝した実効線量は年間1mSv以下である。放射線障害、とりわけ急性放射線障害などは起こるべくもない。福島原発事故は、放射線被曝という点では、不幸中の幸い、健康影響はほとんど心配のないものであったことが、多くの研究者の方々の調査によるデータから判明している。1999年のJCO臨界事故とはおよそカテゴリーの異なる事故だったのである。

 

 では、なにゆえ2100人以上の方々が亡くなってしまったのか。その【原因】は何なのか。それは果たして不可避だったのか。一旦あのような事態になると、ベルトコンベアに乗ったがごとく、必然的に発生してしまう被害なのか。ここに哲学の因果論の視点が要請されてくる。一つの標準的なやり方は、いわゆる「but for テスト」であろう。反事実的な仮定をして構成される条件文の説得性によって、原因指定の適切性を測るという手法である。私は、このテストをパスしうる原因候補を三つあげたい。1)津波震災、2)原発事故、3)避難行動、の三つである。そして私は、この三つに対して、どれが最も後の時点になっても予防可能であったかという視点、すなわち、法理学で言うところの「近因」の概念に似た視点を適用したい。そして、後の時点でも予防可能性が高かったという点で、無理な避難行動や避難行動の弊害を予防しなかったことに【原因】を求めたいと考える。かくして、原子力災害が発生したときに、放射線被曝だけに注意を集中させることは、かえって被害を拡大させてしまう、という重大な教訓を読み取りたい。

【東進会の総会の様子を写真と解説しております】

【東進会総会歴代記念講演】

平成30年:「福島問題と将来への教訓-哲学の視点から-一ノ瀬正樹(昭51卒、東京大学哲学科名誉教授)

平成29年:「地域とアート 鳥取から見える文化芸術政策の未来」竹内潔(平11卒、鳥取大学地域学部准教授)

平成28年:「集積回路・縁の下の力持ち?知の源泉」 池田誠(昭62卒、東京大学工学研究科教授)

平成27年:放射線の人体影響」 小野哲也(昭41卒、(公財)環境科技研理事長、東北大学医学部名誉教授)

平成26年:「渋滞のサイエンス」 西成活裕(昭60卒、東京大学先端科学技術研究センター教授)

平成25年:「看取りの医者を書いた理由」 平野国美(昭58卒、医療法人社団彩黎会理事長)

平成24年:「私の宇宙研究開発」 高野忠(昭38卒、JAXA宇宙科学研究本部名誉教授)

平成23年:「自身のリーダーシップの高め方 次世代リーダーの育て方」 五十嵐朝青(平6卒、㈱コーチエイ社員)

平成22年:「繋がりましょう~豊かな人生のために」 鈴木貴美子(昭55卒、フリーダムトレイル代表)

平成21年:「アイルランドのケルト文化と日本」 鶴岡真弓(昭46卒、多摩美術大学芸術学部教授)

平成20年:「裁判員制度始まる 日本の司法はどうなる」 大野金一(昭31卒、弁護士、元日弁連常務理事)

平成19年:「バイオエタノールについて」 雨貝二郎(昭39卒、日本アルコール販売社長、元人事院公平局長)

平成18年:「日本はどうなる 対アジア外交・対米関係」 塙哲夫(昭28卒、元エクアドル大使)

平成17年:「変動するパラダイム ベンチャーが面白い」 飯塚哲哉(昭41卒、ザインエレクトロニクス創業者社長)

【東進会総会第二部・歴代アトラクション】

平成30年:立川志のぽん(平7卒)による落語

平成29年:弦楽四重奏+独奏クラリネットによる室内楽:森泰規(平8卒)他4名参加

平成28年:ピアノ演奏:根木マリサ(平18卒)

平成27年:ピアノ演奏:大沼岳彦(大沼陽子(昭41卒)のご子息)

平成26年:ケーナ(南米の楽器)演奏:渡辺大輔(平11卒)他3名参加

平成25年:楽話「みはたち(三二十歳)の夢」 :高山了(昭41卒)

平成24年:母校ヨット部創設50周年の思い出話、土浦市街のスライドショー

平成23年:日本剣道形演武:福田成志(昭44卒、三菱武道会幹事長)、助川博夫(昭44卒、常総学院教諭)

平成21年:ラテンダンスデモンストレーション:松下梨沙、福田洋平

平成20年:落語:金原亭馬の助師匠 ベリーダンスで踊ろう:林原由佳

平成18年:中国雑技ショー

平成17年:シャンソン:海老原順、クリスタルボイス:宮本文幸

【東進会総会 当番幹事】

平成30年:五十嵐朝青(平6卒)、伊丹牧子・緒方浩一・広瀬敦(平7卒)、藤井麻美子(平9卒)

平成29年:伊東明彦・鈴木徹(平5卒)、森泰規(平8卒)、藤井麻美子(平9卒)佐々木祐介(平10卒)、竹内潔(平11卒)

平成28年:伊東明彦・鈴木徹(平5卒)、五十嵐朝青・大塚淳・白鳥玲子・堀越智也(平6卒)、青山大人・五十嵐立青・石嶋桃子・藤井麻美子・遊佐敏彦(平9卒)

平成27年:花上克宏・小野村敏之・星川美代子(昭50卒)、伊東明彦(平5卒)、緒方浩一(平7卒)

平成26年:伊東明彦(平5卒)、緒方浩一(平7卒)

平成25年:木村繁夫・幕内邦夫・宮崎好廣(昭43卒)、中根千枝(昭58卒)、伊東明彦(平5卒)

平成24年:伊東明彦(平5卒)、五十嵐朝青・白鳥玲子(平6卒)

平成23年:岡崎孝宣・渡辺良治・逆井誠・永井博(昭44卒)、五十嵐朝青・白鳥玲子(平6卒)

 

平成23年からの担当回数は

伊東明彦6回、五十嵐朝青4回、緒方浩一3回、藤井麻美子3回、白鳥玲子3回である。